カラン コロン

カラン コロン



その硬質な響きで蘇る思い出は



飴玉の甘さに

似ている







【飴玉】







昨日の雨が嘘のように、今日は青い空だった。
蒼天を遮る雲は一切なく、春の日差しが心地よい。

何かいいことがありそうだ。
そんな根拠のないことを考えながら、髪を煽る風を瞳を閉じて感じる。

カラン…コロ…

「浮竹君」


声をかけられるよりも前に、その堅い音で誰だか知れた。

浮竹は手すりにもたれていた腕を外し、彼女の方を振り向く。


「おはよう、

「おはよう、浮竹君。…ってもうお昼だけどね」


はそう言って笑い、手にもった二人分のお弁当箱を持ち上げて見せた。

午前の授業が終わった昼休み、屋上でと昼食をとるのはもう日課。


カラ…


の方から――否、彼女の口の中から聞こえる硬質な響き。

は気が付けばいつも飴玉を舐めている。
それは上級貴族出身の彼女の学校での疲れ・ストレスを癒やす手段だ。

日々諍いが起きるわけではないのだが、上級貴族同士と言うのはやはり面倒なものらしい。
なまじ矜恃が高い為が、学年でも優秀なはそんな奴らから誹謗・中傷を受けることが多い。


「また飴舐めてるな。何かあったのか?」

「んー…まぁ色々ね」


浮竹とは学年が一つ違う。
だから、浮竹はに何かあっても、なかなか助けてあげられることが出来ないのだ。


「思えば、最初も飴舐めてたな。ここで逢って、お前泣いてて…」

「忘れてよ、そんなこと」


は苦笑し、そして浮竹の隣に腰を下ろした。

浮竹も座り、二人きりの静かで穏やかな時間を過ごす。

出逢ったのは、もう一年も前のことだった。

五回生であった浮竹は、ちょうど虚退治の実習で現世へ行った帰りだった。
低級ではあったが数が多かった為、全員が結構な数を相手にせねばならなかったのだ。

熱くなった体と、服の内を伝う汗が気持ち悪くて、風に当たろうと思って屋上に向かった。


ひっく………ひっ………


戸を開けた時に耳に入った、微かな嗚咽。

それで先客がいることが分かったのだが、戸を開けた音で彼女が自分に気付き、気まずいな沈黙が流れた。

しばらくして、口を開いた彼女と会話を交わした。


――それが、今の関係へと続く出逢い。


カラン…カラッ

「あんまり舐めてると虫歯になるぞ」



相変わらず響く音に、浮竹は苦い笑いを見せる。

「ちゃんと歯磨きしてるもん」と返すだが、さすがに量を考えた方がいいように思う。
それにお弁当を広げているのに、飴玉のせいで食べられないのだ。


「昼食べられないだろう。噛めば?」

「口ん中ジャリジャリして嫌」

「…仕方ないな。、ちょっと来い」

「何?」


隣に座るに手招きし、更に近寄るように言う。

そして、不思議そうに這って体を寄せるの腕を引っ張る。


「きゃっ……んっ!」


バランスを崩したの首後ろに手を回し、口付けた。

カランコロンとくぐもった音がし、唇が離れた時にはもうの口内に飴玉はない。


「いきなり卑怯…って、あたしの飴玉ぁ……」


たかが飴玉一つに涙声になるの頭をぽんと撫で、浮竹はその飴の味に顔をしかめた。


「どしたの?」

「いや…。お前、俺のことで苛ついてるのか?」

「……えぇっ!?」


の驚愕した目と声。

どうやら図星だったらしい。


「なんっ、なんで…!?ι」

「最近気付いたんだ。のストレスには色がある」

「…………うわぁ、凄い洞察力だねι」


の一番好きな『林檎(赤)』は怒りやストレスが極度に高い時。
『葡萄(紫)』
『青林檎(緑)』等
…と好きな味順に続く。

要するに舐めてる種類でイライラ度が分かるわけだ。
本人は自分の怒りやストレスを相手に当てるようなことはしない性格なので、これが分かってから浮竹は飴の種類で度合いを判断していた。

「だから毎回飴の種類聞いて来てだんだ」

「そう。だけど、白黒がなかなか分からなくてな」


しばらく後になってから分かったこと。

『ミルク(白)』は浮竹、『黒砂糖(黒)』は本人。

理由は簡単。
互いの髪の色だ。


「今日はずっとミルク舐めてんの」

「俺、何かしたか?」

「違う」


は膝を立ててうずくまり、顔を埋めた。

黒い髪の毛がサラリと滑り、横顔を隠して耳を覗かせる。


「朝ね、友達が…」

そこで言葉を切り、は沈黙してしまった。


「友達が?」

「……言わなきゃダメ?」

「ダメ。俺のことなら気になる」









「友達が、朝から『浮竹先輩ってカッコイイよね』って言うんだもん…」









朝からずっとモヤモヤした。

その言葉が耳を離れなくて、頭の中を回ってる。
授業だって頭に入らない。


その言葉に浮竹は嬉しくなる。


。ほら、おいで」


バッと手を開いて、超笑顔。

はチラリと横目で見て、一瞬行きたくないとか思ってしまった。


「おいで」


が、優しい声音が再度促す。

は耳を赤くしながらも、そろそろと近寄った。


ぎゅう


浮竹はを強く抱きしめて、背中を撫でてやる。

下らないヤキモチが、凄く嬉しくてたまらない。


「俺が好きなのは、だけだからな」

「…うん……」


ああ、やっぱりこの人の胸の内は居心地が良い。

「…あたしも大好き。入隊して、あたしと離れてる間に浮気したら、絶対許さないからね」

「しないさ。愛してるのはだけだから」









カラン コロン

カラン コロン


その硬質な響きは

まだ未熟成な
愛の証



カラン コロン

カラン コロン



いつか音が止むほどに

安心感と
本当の愛を




君にあげるから






*end*






オマケ》

―最近の状況―


十三番隊の様子と言えば……


「浮竹隊長!お手持ちの書類っ!この仙太郎がお持ちするであります!!」

「ああっ!ズルいわよ小椿!!隊長っ、私が!」

「あァン!?マネすんなっていってんだろーがこの猿マネ女!!」

「こちらこそっ!!」


院生時代からの慕われ具合とモテ具合は未だ健在。

おかげで二人きりの機会は滅多になく。


「……………。」


赤い飴玉、
白い飴玉、

もはや必需品です。






黒・揚羽蝶の藤咲 漣様から頂きましたvv
携帯サイトで頂いたので、変換はこちらで勝手にしてしまったのですが…
すみません;;
ホント…素晴らしい夢です!!ステキですYO(ダマレ)
藤咲様、ありがとうございました!!

06.3.28 光の憧憬:雄斗